
【写真】トープラ販売さんから提供頂いた、なつかしい昔の看板の写真。歴史を感じます。
前回までは構想や試作にまつわるお話をしました。この第4回からは、Reference35の原型とも言える量産を意識した検討と試作についてお話しします。
紆余曲折を経て製品形態をシンプルなプラグ型に絞り込むに至りましたが、製品のグレードについては検討の余地を感じました。できる限りたくさんの方に楽しんで頂けるよう価格を抑える方向と、私の想いを妥協なく具現化したいという方向があり、正反対ながらどちらも正しいと思ったためです。
そこで、仮の企画として「松」「竹」「梅」のグレードバリエーションを考え、それぞれの製品の方向性を整理しました。「松」は最高峰として一切妥協しない。「梅」はできる限りシンプルで価格を抑える。「竹」はその中間を埋めるという考え方です。
内容をもう少し具体的に記すと、「松」は回路としてコンデンサーだけでなく低域の力感を出せる抵抗も加え、金属削り出しケースの採用や完全非磁性の達成など、ハイエンドHi-Fiとしても通用する水準を目指す。一方の「梅」は、当時のφ3.5mmステレオミニジャックを搭載したスマートフォンとの組み合わせも意識し、チップコンデンサーのみを使用して製品のサイズも価格もミニマムにしてはどうか…というものでした。
個人事業ではキャパシティと資金の両面で同時に3製品の開発と生産は難しく、第1号製品はどれか一つを選ぶことになりましたが、ここは迷うことなく「松」を選択しました。まずは楽音倶楽部が目指す理想形を示したいと思ったためです。
こうして「松」の具現化を目指すべく、生産パートナー探しが始まりました。特に重要なのは「φ3.5ステレオミニ端子」ですが、これはユキムPNA-RCA01(RCA端子)の製造でお付き合いのあった「トープラ販売」さんが相談に乗ってくれました。トープラ販売さんは独自の高強度な端子用銅素材を開発済みで、ニッケル下地の無い銀メッキも可能など、「松」の検討に相応しいユニークさをお持ちでした。また、内部のラグ端子と呼ばれる、通常の端子ではケーブルを固定するパーツも、一般的なスチール製ではなく、非磁性の真鍮材に交換するなど、細かな要望にも快く応じて下さいました。トープラ販売さんは、長年国内大手オーディオメーカーに供給してきた経験があり、また、自社ブランドでも音質に拘ったプラグを展開されていましたので、オーディオ特有の「拘り」を理解頂けたのは幸いでした。また、詳細の打ち合わせをと同社工場を訪問すると、「作ってみました!」と試作品が出てくるのも驚きでした。
通常、試作は、仕様を決めて費用見積もりを行い、支払いから数週間待つものですが、職人気質の社長さんは「手の早やさ」も頼もしく、「モノづくり」への熱意は通じるものを感じました。加えてトープラ販売さんの設備は、ケース(筐体)も真鍮で製造可能とのことで、出来得る限りのご厚意を頂いたと思います。

【写真】左の白色は寸法確認用の3Dプリント品。右の3つはトープラ販売さんが打ち合わせ前に自主的に作って下さった試作品。プラグは銅素材で銀メッキ。ケースは真鍮削り出し。メッキは外注に出す必要があるので、この時点では無し。
なお、ケース部分は、試作品に近い状態では量産できないとのこと。製造工程が自動化されている都合上、量産時は品物同士がぶつかってキズが避けられないためです。そこで、歩留まりを確保できるという、キズが目立ちにくい形状(角が丸い)と表面仕上(梨地)を提案いただき、メッキも量産に適したニッケル下地メッキと金フラッシュメッキを施した量産前提の試作を行うことにしました。

【写真】トープラ販売さんで製造を前提に、梨地(サンドブラスト)とメッキを施した試作品。R形状は、音質確認のために、R1.0mm、R1.2mm、R2.0mmの三種を作成。残念ながらどれも希望の音質とかけ離れていました。

【写真】上記の通り、角がR形状だと音質面で納得できなかったため、追加で左の3個を試作。写真左から面取り無し、面取り0.1mm(面取り無しに近い)、面取り1.0mm。R形状より音質は理想に近づいたものの最上位の「松」とするには不足と判断。梨地は目指す音質に合っていないようです。また、当初トープラ販売社から指摘いただいた通りながら、見た目として角の欠けも気になるので不採用としました。結局、トープラ販売さんでのケース製造は諦め、旋盤専門の熟練職人が手作りする別工場に試作を依頼。最右端の一つがそれで、最終的には刃物の痕を残すなど微調整を繰り返して完成に至りました。表面は鏡面のように見えますが、土台の真鍮は刃物の痕がヘアラインのように残っている状態です。実は真鍮切削加工後の鏡面研磨も試しましたが、これはこれで音がツルツルとキレイになり過ぎ、目指す方向と異なることが分かりました。ケースは音に関係が無いように感じられるかもしれませんが、実は内部の部品選定と同じくらい重要と考えています。よって試作では、素材、サイズ、肉厚、表面処理、メッキや塗装などいろいろ要素を試した上で決定しています。ほか、シールのようなモノは貼らない、印刷をする場合は面積ができる限り小さくなるなど、理想の音質に向けて細部まで吟味しています。
このように、歩留まりは少し横に置いておき、音質最優先でこだわりを妥協なく凝縮した「量産想定1号機」の作成に漕ぎつけるに至ったのです。
しかし、晴天の霹靂が。
量産に向けて準備を続けるなか、2023年11月30日にトープラ販売さんが廃業するという知らせが入りました。自主廃業のため、最終オーダーとして必要数の生産を頂けるとの申し出がありましたが、継続供給を受けられないことから、同社にお願いするのは断念することにしました。試作に費やした期間と費用が悔やまれますが、国内でオーディオ関連の製造を行うのは大変難しい時代で、致し方のないことだと思います。
次回第5回は、新たな端子探しの始まりと失敗や発見についてお話します。引き続きお付き合いただければ幸いです。
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