前回の「USBアクセサリー開発ストーリー(その1 全ては好奇心から始まった~)」では、USBアクセサリーの着想から製品化に至る経緯をストレートにご紹介した。
今回は続編として、USBアクセサリーにまつわる四方山話をお伝えしたい。
■USBアクセサリーと真空管サウンド
パナソニックのBDレコーダーに興味を持っている方なら、サウンドモード「真空管サウンド」をご存じかもしれない。USBアクセサリーとは無関係のようで、実は深い繋がりがあり、その後の展開に続くので、ここでご紹介したい。
当時BDレコーダーの開発部門は、統括していた楠見雄規氏(現パナソニック社長)の「本物を作れ」というポリシーの元、製品設計の他にもいろいろな研究開発ができた。例えば当時「HDMIの音は悪い」と言われていたので、それに対し理論と実験を繰り返して改善を模索した。純粋なオーディオ機器ではないので、そこまでこだわる必然性はなかったかもしれないが、結果、音声信号の伝送方法を変えることなどで成果を上げることができた。評論家やマニアからも認められ、HDMI製品全体の底上げにも繋がったと思う。ここからが本題だが、実用性に縛られず、遊び心として、デジタル機器であるBDレコーダーにも「真空管サウンド」という機能も入れられたのは面白かった。実は、この真空管サウンドは、USBアクセサリーと関係が深い。「真空管サウンド」の開発コンセプトは、単に真空管の音色をシミュレーションするのが目的ではなかった。1970年代にオーディオに興味があった私は、当時のアナログオーディオは色々と楽しむ要素があったと感じている。真空管アンプは、趣味で自作する人が多く、金田式の登場もこの頃だ。また真空管アンプは真空管の管球を交換すると音が変わるのも楽しみで、12AU7と12AX7を交換したり、また同じAU7でもメーカーが違えば音が全然違い「このメーカーの球の音が好き」という人が出てくるなどして大いに盛り上がったものだ。他にも当時主流だったレコードプレーヤーの場合、カートリッジを交換して音を楽しむというのは常識だった。筆者も何本ものカートリッジを所有して、気分に応じて楽しんだものだ。
しかし時は流れ、アンプは半導体が主流になり、アナログプレーヤーもCDプレーヤーに置き換わり、趣味として「音の変化を楽しむ」のはハードルが高くなったと感じる。前置きが長くなったが、「真空管サウンド」は、この「音の変化を楽しむ」という趣味的な面白さを復活する想いで開発したものだった。
余談だが、当初の「真空管サウンド」は、数十種類の真空管の特性をシミュレーションして聞き比べ、音質として好ましいのはもちろん、さらに面白さという観点も含めて3パターンを厳選して製品に搭載した。その後もさらに検討を続けて6パターンに増え、今もパナソニックの最上位BDレコーダーに搭載されている。デジタル技術で音を良くする「高音質」に加え、「好音質」という発想だ。
■USBアクセサリーの真の狙い「音で遊ぶ」
レコードが主流の時代、テクニクスでは、T4Pカートリッジで音を変えて楽しむというコンセプトの製品が発売された。ポップス用やクラシック用などを色も分けて販売していたのだ。名称も「カートリッジ」を文字って「かえとりっじ」と遊び心が窺える。しかしご存じの通り、CDプレーヤーが主流になると、こうした遊びができなくなってしまった。趣味人としては寂しい時代である。
ところが転機が訪れた。時が流れてCDプレーヤーにもUSB端子が装備されるようになり、筐体を分解することなく、ユーザーも簡単にUSB電源を経由してセットの電源回路にアクセスできるようになったのだ。実際に、USBアクセサリーの原型といるZobelフィルタを追加してみると、音が良くなると同時に、その音色も使う部品によって変えることが出来るのが分かった。これがUSBアクセサリー(USBパワーコンディショナー)の原点であり、「USBかえとりっじ」という新しい遊び方を着想した瞬間だ。「USBかえとりっじ」は実際に試作して社内で提案。残念ながら製品化には至らなかったが、私自身としては今も思い入れの強いアイデアである。
テクニクス製品として販売された「かえとりっじ」(1986年頃)
USBパワーコンディショナーのバリエーションとして社内で提案した「USBかえとりっじ」(製品化には至らず)
■USBアクセサリーでさらなる楽しみを求めて
パナソニックで単体製品としてのUSBパワーコンディショナー「SH-UPX01」が商品化された後、ほどなくして退職の時期となった。しかし、音を良くするアイデアや、音の変化で遊ぶという楽しみをオーディオファンに提案したい想いはまだまだあり、2020年2月、音を楽しむ人達の倶楽部“楽音倶楽部”を発足させた。
一部は既にユキム社のSuper Audio Accessoryシリーズとして具現化し、今後は、楽音倶楽部オリジナル製品として、長年温めてきた「USBかえとりっじ」の実現に向けても動き出している。
このブログでは今後、ユキム社製品での音質へのこだわりや、検討中の「USBかえとりっじ」などについてもお話したいと思うので、続編を期待頂きたい。